物語を語るものが世界を支配する

ドラマ、映画、小説、マンガなどあらゆる”物語”について語っていきます。ブログ名は、ネイティブアメリカンのホピ族の諺から。

70年代の司馬作品の大河ドラマは、群像劇の面白さに溢れていた!

NHK大河ドラマに、最も多く原作が使われた作家は司馬遼太郎で、実に6本のドラマが制作されている。(2018年現在)

 

竜馬がゆく」(第6作。1968年)
国盗り物語」(第11作。1973年)
花神」(第15作。1977年)
翔ぶが如く」(第28作。1990年)
徳川慶喜」(第37作。1998年)
功名が辻」(第45作。2006年)

 

2番目は吉川英治の4本、3番目は山岡荘八の3本だ。

 吉川英治原作の大河ドラマ
太閤記」(第3作。1965年)
「新・平家物語」(第10作。1972年)
太平記」(第29作。1991年)
武蔵 MUSASHI」(第42作。2003年)

 

山岡荘八原作の大河ドラマ
春の坂道」(第9作。1971年)
徳川家康」(第21作。1983年)
独眼竜政宗」(第25作。1987年)

 

とは言え、原作なしの脚本家オリジナル作品はさらに多く、最近はその傾向が顕著になっている。

原作ありの作品でも、90年代以降は大きくアレンジされ、脚本家のオリジナル作品に近いドラマとなってきているようだ。

 

大河ドラマの脚本づくりは、一年間にわたる長丁場で、歴史的事実を調べる必要もある。物語の土台となる事件や人物がいるにしても、大変な作業だと思う。

 

脚本家の皆さんは、どうやってドラマを作っているのだろう?

 

長いドラマを描くときには、主人公の身の上に次々と事件が巻き起こり、毎回ハラハラさせて見せていく手法と、複数の人物それぞれの事件やドラマを並行して描いていく群像劇の手法がある。

 

前者の手法は韓国ドラマに多い。最近のNHK大河ドラマも、同じ傾向のように感じる。

 

一方で欧米のドラマには「ER」ダウントン・アビー」「ゲーム・オブ・スローンズ」など、後者の例が多い気がする。
そう言えば、「アベンジャーズ」も群像劇かもしれない。

 

本当に魅力的な群像劇では、それぞれのキャラクターひとりひとりが「自分こそ、このドラマの主役だ」と信じて生きている。

与えられる役割に差があっても、「自分なんてどうせ、主役を引き立てるための、通りすがりの脇役さ」などとは、微塵も考えていない。

それでこそ、ドラマ全体が盛り上がるのだ。

 

70年代に映像化された、ふたつの司馬作品の大河ドラマには、そういう群像劇としての生き生きとした魅力があった。

 

もちろん、二作品の脚本を担当された大野靖子さんの力が大きかったと思うが、複数の司馬作品が一本のドラマの中に取り入れられていたことも、理由のひとつだと思う。

 

国盗り物語」(第11作。1973年)
国盗り物語」には、以下の司馬作品が使われていた。
(カッコ内は、演じられた役者さんのお名前)

・ 斎藤道三平幹二朗)、信長(高橋英樹)、光秀(近藤正臣)を描いた「国盗り物語

・ 秀吉(火野正平)を描いた「新史太閤記

・ 秀吉の家臣として生き、関ヶ原を生き延びて土佐の太守となった山内一豊東野英心)と、その妻の千代(樫山文枝)を描いた「功名が辻

・ 信長や秀吉と敵対した忍者、葛籠重蔵(露口茂)が主役の「梟の城

・ 女のために本願寺に味方し、信長と対決した雑賀孫市林隆三)を主人公とする「尻喰らえ孫市」

 

花神」(第15作。1977年)
花神(かしん)」には、以下の司馬作品が使われていた。

・ 倒幕勢力の中心となった長州藩の思想家・吉田松陰篠田三郎)、革命家・高杉晋作中村雅俊)を描いた「世に棲む日々」

・ 高杉らの意志を継ぎ、倒幕事業を完成させる戦争の技術者として活躍した、(ドラマの主人公である)大村益次郎中村梅之助)を描いた「花神

・ 言わずと知れた坂本竜馬夏八木勲)を描いた「竜馬がゆく

・ 同じく高杉晋作の暗殺者として活躍した天堂晋助(田中健)(但し、架空の人物)が主人公の「十一番目の志士」

・ 新撰組土方歳三長塚京三)らを描いた「燃えよ剣」「新撰組血風録」

・ 最後の将軍、徳川慶喜(伊藤孝雄)を描いた「最後の将軍」

・ 最後まで官軍と戦った越後長岡藩河井継之助高橋英樹)を描いた「峠」

 

複数の作品を使うことによって、複数の「主人公」の視点から、歴史を描くことができる。

歴史は主人公の側だけでなく、敵対した側からの視点も大事だ。

 

立場の違う視点から複眼的、多層的に描くことによって、歴史的事件や人々の行動の意味が、本当の意味で理解できるようになる。

 

歴史が立体的に立ち上がってくる感覚というべきだろうか。一気に視界が開けて、いろいろなものが見えてくる感覚だ。

 

それこそが、歴史を知る楽しさだと思う。

同時に、その複眼的視点が物語に深みと陰翳を与える。ドラマを見る楽しさも生み出していたと思う。

大河ドラマでも、映画でも、小説でも、マンガでもあるいはゲームでも、歴史や歴史上の人物に触れる機会があったなら、そこに留まらず、同じ時代を生きた他の人物や事件を描いた別の作品に触れてみて欲しい。

それが歴史のドラマを楽しむ醍醐味なのだと思う。

※ 敬称はすべて省略させていただきました。
※ 余談だが、この記事のため、「花神」のキャストを再確認していたら、声優の島本須美さんが、竜馬の妻のお龍役で出演されていたことに気づいてしまった(^_^;)