人間失格 太宰治と三人の女たち
紛れもない傑作だ。
蜷川実花は、蜷川幸雄の境地に達しつつある。
描かれる男と女の業は、ときに甘やかで扇情的だが、どこか滑稽でもある。
自分勝手なクズにみえる太宰は、女たちの願いを拒みきれなかっただけの、弱くうかつで優しい男にもみえる。
一方で、太宰が追い求める至高の作品への執念も描かれる。
生きたままの自分自身の腹を裂き、はらわたを引きずり出すような想いをしてでも描くべきだという強烈な意思。
それらを描く蜷川の手腕は見事だ。
業を炙り出し、観客の目と心に強烈に刻印する魅力的なシーン、生き生きとした台詞。
その蜷川の想いを実体化させる役者たちの演技もいい。
美しく儚げだが、したたかな沢尻エリカ。夫に翻弄されるだけのように見えて、凛として力強い宮沢りえ。
とくに様々な表情をみせ、かわいらしさ、愚かさ、怖さ、純粋さを演じきった二階堂ふみが強く印象に残った。
そして、これまでで最も心惹かれる小栗旬の演技。
極彩色な色使いで知られる蜷川だが、本作ではむしろ抑えられている。
真っ暗な夜の海から始まる冒頭の場面。死にかけた太宰が雪の中に横たわる、白と血の赤のシーン。抑えることによって、色は物語をさらに引き立たせる。
人々が、この作品を味わう感性を持ち合わせていないとしたら、とても残念だ。